10

1月

2010

現代への警告でもある実話サバイバル - 「脱出記」

去年の暮れ、お気に入り監督のピーター・ウイアーの最新作 "The Way Back"としてネットで紹介され、その原作が素晴らしい、どうも私の好みだぞという感触を得て2007年に文庫本になってた翻訳をAmazonに注文。お正月をはさんでやっと先日届く。ちょうど半分読んだところ。実は450ページ1日で一気に読めてしまうくらいやめられない。仕事がなければ1日読みふけっているだろう。

副題に「シベリアからインドまで歩いた男たち」とあるように信じられない距離をそれも探検とか旅行とかいうんじゃない、第2次大戦中の共産ソ連の強制収容所から脱走しての逃避行。書いたのはその脱出行の実行者の一人で当時23歳だったポーランド陸軍騎兵隊中尉、スラヴォミール・ラウィッツ氏。極限の収容所生活と逃避行を生き延び、戦後はイギリスに亡命。1956年、いまだ共産主義の支配的なソ連の影におびえる日々のもと、使命感に突き動かされてペンを取ったという。25カ国語に訳されいまだに版を重ねて世界中の人に読まれている。

 

その使命は十分に果たされている。共産ソ連の非人道的な仕打ちは掃いて捨てるほどあって、はっきりいうとソ連が崩壊して20年近くなった今でさえ、時々うさん臭い報道を見る。少なくともロシア人自体がスターリンの非を認めているのはけっこうなことだ。そして共産時代にもささやかな幸せだけを望んだ無辜なロシアの人々も大勢いたわけだ。こんな人たちもスターリンは見逃していない。

この本を読み始めてまたムラムラ怒りが湧いてくる。大昔からあのだだっぴろい国を治めるのにああいう国体を取らざるを得ない、あるいは他人の国を侵略してまで不凍港を切望していたという歴史は理解している。そのとばっちりの最たるのがポーランドだろう。

 

著者も前書きに書いてるように何世紀にもわたってひどい仕打ちを受けてきた国。特に近世からついこの前まで、東西に隣接したソ連とドイツという巨大な敵にはさまれ、いいように蹂躙されてきた不幸な地政学的位置にある国。大戦が終わっても共産ソ連の支配下にあったため、生き延びた命を長らえる故郷にも帰る事のできなかった大勢の人たち。著者と同じようにでっちあげられた理由により強制的に逮捕され、尋問され、処刑されあるいは働かされた多くの人たち。

ラウィッツ氏の文体には、その祖国ポーランドへの底知れない愛と、不幸にも敵の手にかかって不条理な死をとげた何万にもおよぶ同胞への深い愛と追悼がこめられている。

そして忘れてはいけないのは、そんな究極の環境でもユーモアを忘れてない氏と仲間たちだ。そしてそのユーモアの行間に共産ソ連に対しての痛烈な批判を織り込んでいる。1956年当時なら、まだまだこの本はソ連にとっては世界に出てはならぬものだったはずだ。

 

著者が勇敢で意志が強く、信じられないような逃避行もこなした体力と精神の持ち主であるという事は読めばわかるが、こんな危ない本を出版したその勇気にも拍手を贈りたい。イギリスにいたとはいえ、故国には係累もいるし、同胞に悪影響を及ぼすかもしれない。何よりも自身の身さえ危険だったはず。それでもスターリン治下のソ連の残虐非道を西側のみならず世界の人に知ってもらいたい一心が勝った。

著者も願ったように前世紀に共産主義が崩壊するのを見届けてからも、精力的に体験談の講演生活を送り、祖国ポーランドの孤児支援施設を運営して2004年4月、88歳で亡くなった。

 

著者の読者へのメッセージは;

私は個人の利益のために書いたわけじゃない。大衆と名づけられ、自らは声を発する事のなかった全ての人々を記念するために書いた。これは今生きている人々への警告の書であり、願わくはより大きな善に対する道義をわきまえた判断例を示す書とならん事を。

 

もちろん以上のような政治的背景は抜きにして(抜きにはできないんだが)実話の脱出記としてもたいへんおもしろく、本に載ってた地図ではもの足りず、Google Earthを起動して地勢を調べたり、東シベリアに住むトナカイ橇をたいへん上手にあやつるモンゴル系遊牧民オスチャーク族のこと、当時のロシアの文化や食べ物などなど、この本によって初めて触れたものが多く、楽しめた。後半はシベリアを無事逃れモンゴルに入り、ゴビ砂漠、そしてチベット....と、気候風土が全く違う部分のサバイバルに入っていく。著者のメッセージに共感し、サバイバルものが好きなら、ぜったいお勧めの1冊だ。

 

余談だがヒマラヤ山脈を越えてるとき著者はあるものに遭遇する。当時この部分が大きく取り上げられ、世界中の冒険家のロマンをそそったことは有名だ。その部分を読むのを今からゾクゾクして楽しみにしている。

 

ヴィレッジブックス 「脱出記 シベリアからインドまで歩いた男たち」

原題 "The Long Walk" by Slavomir Rawicz  1956

映画 "The Way Back"  Directed by Peter Weir with Ed Harris, Colin Farrell

 

上記リンク先にはスチル写真が置いてある。この写真を見て早く映画が見たい!と心がはやった。インド、モロッコ、ブルガリア(さすがにシベリアロケは無理だったようだ)でロケ。エド・ハリス、コリン・ファレルと来たら見ないわけにはいかない。今年に公開される予定。

 

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02

1月

2009

ロマンスもの2題 -「あなたは私の婿になる」と「戦士の休息」

新しい年を迎えた。2010年。皆様におかれてもさらに良き年になりますよう。

日付けは1月2日になってるが、もう3日。1月3日と言えばメル・ギブソンの誕生日。「おめでとう、メル!」のついでに毎年この日に新年のご挨拶をしてる(^^)。

 

メル・ギブソンのファンサイトを運営する私にとっては、今年は楽しみが多い。公開を控えた2本の主演映画、監督するのが決まってるもの1本、春頃開始の主演作1本と久方ぶりに映画人メルがおおいに動く。できるだけ追っていきたいと思うが、また今年はたった4ページから初めた本サイトの10周年、さらにWhat Women Want 「ハート・オブ・ウーマン」のロスアンジェルスプレミアに幸運にも参加でき、幸運にも生身のメルギブソンに会えた記念すべき出来事の10周年も迎える。

10周年?! なんてこと、紀行文はそのうち書きます...などと言いつつ忙しさにかまけ、さぼってたら10年! 最近ひとしお思う。地球の自転が実は密かに速くなってるんじゃないかと....大昔古代マヤ人が予言してたのはこの事じゃないかと。しかし嘆いても仕方ない。自転は停まってくれないだろうし、やることはいっぱい。せめて10周年記念として上記プレミア紀行文でもアップしよう。

 

さて去年の暮れ続けてジャンルは同じ恋愛ドラマになるだろうが、全く毛色の違う2本を観た。ひとつは鑑賞券を得て久しぶりの劇場でロードショウとして、サンドラ・ブロック主演The Proposal「あなたは私の婿になる」を楽しんだ。

S・ブロックは好きな女優の一人だ。いったい美人なのかセクシーなのかよくわからない雰囲気が気に入ってる。コメディでは笑わせてくれるし、筋肉質に近い体つきに見えるがグラマラスなのもいい。

やり手のカナダ人キャリアウーマンがヴィザの更新ができないため、とっさに部下の若い男との偽装結婚を思いつき、彼の実家に行くはめになりドタバタが始まる。大都会シカゴからおおらかなアラスカに行くくだりは傑作。そこに行って部下の実家が土地の素封家でお屋敷のような家を見て驚くブロックの演技も最高。

しばらく見ればもう結末は推して知るべし。アメリカのロマンチック・コメディなら複雑な筋立てなし、不幸な結末なし、スピーディな演技とファニーな台詞、一人か二人の意地悪な妨害役...と約束通りの展開で、それでもブロックのうまいコメディエンヌぶりがおおいに笑いを誘い、ハンサムな相方、ライアン・レイノルズがちょっとすっとぼけた人のいい役回りで、あれよあれよと言う間に二人は本物の恋に陥る。ところでこのレイノルズ、確かにいわゆるイケメンで日本の女の子好みのように感じられたが、残念、私の好みじゃない。40歳くらいになったらどうかな。

安心して座席に身を預けられる映画の典型だ。問題提起や意識を刺激される事もあまりない。単純に楽しむ映画。この手の映画はアメリカならではだろう。アメリカの観客のためのアメリカ的ロマンスもの。以下に書くフランスの恋愛映画なんてきっとアメリカじゃはやらないだろう。

 

1962年フランス/イタリア合作 Le Repos Du Gerriere 「戦士の休息」。すでに別れてはいたが、妻だったブリジット・バルドーを主演に迎えたロジェ・バディム監督作品。同じ恋に陥っていく男女を描いてもこうも違うのかとあらためてフランス映画の妙を見せつけられた思い。この映画は昔一度劇場で見て、BB(ベベ)のふくれっ面の愛らしさにうっとりし、音楽の美しさに魅了されたのを覚えてて、今回ふと思い出しレンタルしたのだが、当時「戦士の休息」(原題通りの訳)と言うタイトルの意味するところが当時よくわからなかった。

偶然に出会った男に惹かれ一緒に暮らし始めるが、この男が何か病理的な暗さを持ち、不実なのだ。フランス映画、特に恋愛ものはアメリカの言ってみればわかりやすく結末まで読めてしまうようなプロットの作りよりも、なぜだかわざわざこちらをイライラさせるような演出や脚本になってる事が多い。実はそういうところも含めてフランス映画が好きなのだが、アメリカ的ストーリー展開に慣れてしまうと、とても不自然に感じられるかもしれない。

しかし実際の男女の心の機微とは単純なものではないし、はたからみれば不自然な行動や言動がつきものだ。この映画もそういう意味では単純でなく自然でない。つまり二人は知ってか知らずか心理的駆け引きをしてるのだ。駆け引きというより戦い。男が勝ってるように見えてその実、最後に笑うのは女。イタリアの廃墟の中で最後にBBにすがりついて愛を乞う男に対し、長い金髪を風になびかせ泰然と微笑むあのラストシーンがまさに戦い終えた戦士の休息なんだろう。つまり休息であってまだ戦いは続く...と匂わせる。男女の心の機微は尽きない。

2つの全く毛色の違う恋愛映画を見終わって、2つともそれなりに楽しめるが、私にとって心に残り、刺激を受け、女主人公になった妄想を楽しめるのは古くても不自然でも「戦士の休息」のようなフランス映画だなとあらためて認識した次第。

 


 

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13

12月

2009

座右の映画考

以前のNotebookから新たに書き出し。

 

もし生涯ベストテン映画なるものをあげよと問われたら? これはちょっと難しい。だが同じ映画を何年かたって再三再四見るというものなら、誰にでも心当たりがあるだろう。つまりこれが生涯ベストテン、ただしベストフェイヴァリットなのだ。お気に入り、これが私にとっては肝心要。単純。だからジャンルはあってないようなもの。ただ一ついつも目的意識を持ってスクリーンに、TV受像機にむかっているようだ。ようだ、という曖昧な言い方をするのは、昔友人にそう指摘されて、そういえばそうかもと納得した。

 

具体的な例をあげるとこれは歴史物に多いが、原作や関連著作本を先に読んでその映像化に思いを馳せる。図々しくも自分が脚本家、ひいては監督になったつもりで読んでいたりする。この場合はその本がすでに映画化が決まっているケースにあてはまるが、本を読む時は、往々にして頭の中に浮かんだ映像と共に読んでいる事が多い。だいたい読書ってそんなものだろうが、この主人公にはあの俳優、これを監督するならあの人がピッタリなどと、いってみればプロデューサーにもなったりする。ただしそれ以上の事は金とパワーががないから、いつの間にかそんな事も忘れてしまったりする。あとでそれが映画になると聞いて、忘れていた映像が一気に蘇ったりすると、その映画はもう私の物なのだ。

 

だからできた映画を見に行く時は、どうしても欲しかった映画化権を競り落とし損なった監督やプロデューサーの心境。なんて大袈裟な、と自分でも笑ってしまうが、けっこうこれで感動して帰ってくる。なぜなら私の貧弱な想像力より、数倍も彼等の方が上手だから。当たり前? いやそんなことはない。たまには私の方が勝ち、というのだってあるんだから。いつかそういう例も書いてみ見たいと思うが、ちょっと今思い出せない。

 

で、なにをいいたいんだっけ。そうそう目的意識。というより私にとってそれを見たい必然的理由という方が近いか。といったって理屈っぽいものじゃない。私にとっては映画は単純な娯楽でもあるが、芸術鑑賞でもありまた啓蒙のもとでもあるので、どんな作品からでも何かを得る。ただ全部見る事は不可能だから絞る時の基準があるというだけだ。メルが出てたり関係してれば絶対見る。これはりっぱな理由。メルが見ろといったものも見る。これも基準の一つ。これじゃあんまり自主性がない? 

いや、けっこうこれが下手な評論家のレビューより当たっている。いまのところはずれがない。

メルギブソンを知る前も、きっかけなんてこんなもんだ。それがもとでねずみ講式に見たい作品が増えていくのが、楽しかった。今でもそういう見方をしている。

あとは好きな監督や俳優、好きなジャンル(歴史ものとか)など、普遍的な基準に基づく。

 

洋画の場合、見る基準に絶対入らないのが日本側の配給会社の宣伝文句と、先行試写会における特にタレントなどの感想。その分、製作国側のコメントやら製作ノート、読み応えのあるプレビューをがんばって読んだ方がずっとましだと思ってる。その点インターネットの普及は視野を広げさせてくれた(広げさせ過ぎの感も否めないが)。

 

そういう風にして見たたくさんの映画から、そばに置いておきたい座右の映画ともいうべき第1弾を挙げてみたら...........

 

神々の王国(1949 フランス)ジュリアン・デュヴィヴィエ
真夜中のパーティー(1970 アメリカ)ウィリアム・フリードキン
2001年宇宙の旅(1968 アメリカ)スタンリー・キューブリック
3匹荒野を行く(1963 アメリカ)フリッチャー・マークル
アフリカの女王(1951 アメリカ=イギリス)ジョン・ヒューストン
ノスタルジア(1983 イタリア)アンドレイ・タルコフスキー
銀河(1968 フランス=イタリア)ルイス・ブニュエル
ドレッサー(1983 イギリス)ピーター・イエーツ
ピクニック at ハンギングロック(1975 オーストラリア)ピーター・ウィアー
さまよえる人々(1995 オランダ=ドイツ=ベルギー)ヨス・ステリング

 

メル・ギブソン関連の映画や邦画、ケルト圏の作品などを外したとりあえずの10本。どれも心に残り、思い入れの仕方も様々。なぜ好きなのか気になるのか追々記していきたい。

 

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