彼は大家族の中で育った。11人きょうだいの真ん中。彼がたとえて言うところの「それ自体で一つの小さな社会」の一部を成していた。両親のどちらに、よりなついていたか聞いてみると「男ってのはたいてい乳離しないもんさ。他に何ができる? 母は......あんな女性は他にいないね」
やはりHamletで共演したグレン・クローズは、彼がしばしば母親のことを話したのをよく覚えている。「母親のことをとても愛していたわ。一度こんな話をしたの。彼は父親と窓から庭を見ていた。ママはたくさんの洗濯物を積み重ねてそれを燃やそうとしてたの! あまりの量に彼女はうんざり! 彼にとってその光景は今でも最も荘厳なイメージの一つなの」
「彼女はでっかいたき火をこしらえたんだ」とメルが詳しく話してくれる。
「親父はそれがすっかり燃え尽きる頃にメキシカン・ハットダンスを踊りながら母にこう言った:" 一体全体お前は何をしてるんだ??" それから二人で大笑いし始めた」メルはここでこの鮮やかな記憶を彼一流のギブソニアン・ウィットで味付けしてちょっと話をそらす。
「ほら、昔女性達がブラジャーを全部燃やした事があっただろ。母はその代わりに僕たち全員のパンツを焼いちゃったのさ」と笑う。
「そうする事で彼女は開放感を味わったんだね」きっと彼女は強い人だったに違いない。
「多くの点で、」声が柔らかくなる。「多くの点で僕らは彼女に大して弱味がある。母は実に寛大で思いやりのある人だった。11人の子供の洗濯物と格闘しなくちゃならない。想像してみて---明けても暮れても洗濯、洗濯、家事.....とにかくそれ以来僕らは彼女を手伝うようになった。洗濯物を干したりするのをね。またシャツを燃やされてはたまらない.....」
現在は彼自身大家族の長である。彼を数に入れなければ6人(註:今は7人) の子供達がいる。
「僕はいちばん年上の子供なんだ」と大まじめで言う。「ワイフは実に手際よく家庭をまとめている。彼女がほとんど采配し決定する。家を切り盛りする事が好きなんだ。たいしたもんさ。感心するね。僕はその手の事はからっきしダメ」「ロビンについて何がすばらしいかと言うと、多くのオーストラリア人がそうでないのに対し、彼女は全く謹厳実直だってことだ」と言うのはオージー男の代表ジョージ・ミラー監督。
「我々は何かに追いつこうと、しゃかりきになって努力するのを面倒くさがるからね。ま、言ってみれば健全な無神論者でいようとするんだな。なんであれ確かな事はメルにとって家族の絆を強く保つ事こそ一番の情熱の対象だということだ」
Mad Max3部作でメルを演出したミラーはこの大スターが初めて父親になった時の事を思い出す。
「雨だったのでリハーサル中だった。彼は小さなハナ(長女)を空中に放り投げ、抱きとめ、まるで崇拝の対象であるかのように長いこと見つめていた。それからこう宣言した。" 今までの人生で最大のミスは彼女の誕生の場に居合わせなかった事さ。二度としないつもりだ " ハナはちょうど彼がエジプトに撮影に行ってる時に生まれたんだよ。その後はもうあの子に夢中だね」目の前にその光景を見ているようにちょっとひと休みする。
「翌日からハナのもとを離れて彼はロードウォリアーになった」
彼の子供達はマックスの遺伝子を受け継いだ。
「もうほとんど病気だよ。おもちゃのガンを持って外に飛び出して森の中でペイントボール(映画で使う赤い絵の具が入った小さな袋)を撃つのに夢中さ。いっちょ前にやぶをかき分け敵を釘づけにする。手のつけられないガキどもだ。男の本領を発散させてるんだな。いちばん下のチビがいちばん無慈悲だね」
ロパータの方に向いて;「仲間に入ってしばらくつきあってみるといい。そしてジャーヘッド(第6子Miloのニックネーム)とつきあってみるといい。 あの目つきは人間じゃない。彼はたった6歳の殺人マシーンさ」
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Mad Max3の撮影のためにシドニーに戻って来た1984年の頃、メルの中で何かが変化していた。
「彼は成功した者が味わう例の重荷をずっしりと背負ったんだよ」とミラー。「演技自体は何も問題なかった。彼には天性のものがあったしね。問題はその後さ。取り立てて理由がないと思われるのに、まるで半神半人の大スターの一人として扱われるように感じたんだ。基本的に彼自身はごく普通の男がごく普通に労働をしていると思ってるんだから。
これは彼の中に大きな葛藤を生む事になった。ましてやカトリックの躾を受けて来た人間にとっては自分のやってる事はほとんど詐欺行為に近いと思ったんだよ。Mad Max3の現場に入る頃、既に内面の精神的な混乱ははっきりと表に出ていたね」
「それ以前にたて続けに3本撮り終わったところで休む間もなく4本目に突入。もうどうにかなりそうだった」とメル。「大人になりきれない尻の青いガキだった。仕事が終わるとよくスタッフと外にくり出して飲んだり騒いだりしてたよ。翌日はけっこうひどい状態さ。それでもセットに入ってやるべき事はちゃんとやった」
すばらしい歌手でもあるティナ・ターナーは親馬鹿丸出しといった風情でこの共演者の事を回顧する。
「まるで高校生って感じだった....きれいな青い目のハンサムなね。結果的には全部いい事だったの」ため息をつく。
「日を追うにつれ酒量が増え、無茶な飲み方をするようになった時こう言ったの。飲んだってかまわない、でもセットではダメって」
「メルはいつも時間にはちゃんと現れた」とミラー。
「だがある晩、外出したままなかなか現れない。くそ、何が起きたんだ? どっかで喧嘩にまき込まれて怪我でもしたのか? やっと彼がやって来た時、私はかなりカッカしてたがとにかくそばへ呼んでこう言った。" いいか二度と遅れるな" 1週間ほどのち彼はある映画賞を受けるためにメルボルンに行く事になったので私は酒の事を注意したのさ。彼は " 時間までにちゃんと戻る。約束するよ" といって出かけた。
翌朝メルは何とタキシードにブラックタイのまま、ゴーグルをつけて砂丘の向こうから走って来た! " ジョージ、ジョージ!" と大声で叫んでいる。シャンペンとグラスを持ってよろめきながらね。よく見ると酔っぱらった振りをしてるのさ。" ジョージ、僕は準備オーケイだよ、とりかかろうぜ!" ときた」
最終的に彼をシャキっと目覚めさせたのはターナーだった。
メルの説明によると「ある日彼女が雑誌に載った僕の写真を送りつけて来た。戸惑ったよ。どういうつもりなんだ? よく見たら彼女のメッセージが書いてあってね。" Don't f**k this up! "(自分を台なしにするんじゃない)って」
まじめな顔。「この事で自己嫌悪にしばし陥り、罪悪感を持つようになった。でもこれは悪い事じゃない。だって僕なんかよりずっと過酷な人生を見て来た人から与えられたものだったからね。ここらで一息入れて考え直してみるいい機会だ。彼女のこの思いやりにとても感動したよ」
一旦この混乱状態を切り抜けると、彼はじっくり腰をすえて自分を裁定しはじめる。
「ティナのおかげでよく考えてみたら、この種の忠告をしてくれた人は彼女が初めてじゃない。たくさんの人がそうしてくれてたんだ。いいかげん大人になれってね。些細な心の傷を持ったおめでたいガキだったんだよ。世の中の事なんかこれっぽっちも知らないでいきがってた青二才。いつまでもそうじゃいけないな。人生は経験の積み重ねさ」
「私の気持ちが通じてこんな嬉しい事はないわ」ターナーは言う。
「だってなんて言うか、あのままだと彼は自分で自分をぶっ壊していくのが目に見えていたもの」
今でも飲んでヘマをする? 「まさか!」質問にびっくりして即座に否定する。
「時間の無駄さ、全く」もう飲んで騒ぐ事などずっとしていないに違いない。
「もちろん! そんな事は肝臓を傷めるだけだし気分も悪くなる」何となくここのところ彼が保っているような政治的・宗教的中庸を示唆したような答え。
「ヘイ、中庸って何さ?」
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